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その1 第三話 お試し

Auteur: 彼方
last update Date de publication: 2025-11-25 16:00:00

3.

第三話 お試し

 玄関には家族の写真がいくつか飾られていたがどれも子供たちか子供と父親が一緒に写っている写真かであり母親の写真はひとつも無かった。

(いつもカメラを持つのは奥さまだったようですね。まあ、そういう家庭は珍しくないです。けど、1枚くらいあっても良さそうなものですけど)

 玄関から廊下はある程度掃除してあったので細々したゴミを取り除き、あとは拭き掃除することで一旦よしとした。

(玄関口にわずかですが悪臭がありますね。まあ、玄関、とくに靴は臭うものですからね……まして男性3人では。こういうのは他人じゃないと気付けない臭いなので自分たちでは対策をしない家庭がほとんどです。持参した強力消臭剤を置くとしましょう)

……コトッ

 紅中は玄関の靴箱の上に無香料の消臭剤を置いた。見た目はオブジェのようで掃除して細々したゴミがなくなった靴箱の上に置くのにはちょうどいい。

 廊下には電話が置かれていないのに電話台があり、なんとなく時代に置き去りにされたかのようでどこか寂し気に見えた。

(この電話台、ここにあっても意味がありませんね。ちょっとどけましょうか……。どこに置いたら丁度いいでしょう……?)

 紅中は靴箱の横にスペースがあるのを見つけた。

(ん! ここ丁度いいんじゃないですか?)

 紅中は内ポケットから小さな巻き尺を取り出して靴箱横のスペースと電話台を計測した。

「わあっ! 1センチの狂いもなくぴったりだわ!」

 紅中は思わず声が出た。

「どうしました?」

「あっ、旦那様。失礼しました。これは、ちょっとびっくりしただけで」

「何か手伝いますか?」

「よろしいのですか? それでしたらこの電話台を玄関の方に運びたいので一緒に持ち上げてもらえたらありがたいです」

「了解。その程度、お安い御用だよ」

「「せーの……ンッ!」」

 欅で作られたその電話台は中身を全部出してもなかなか重かった。

「よいしょ……っと。あ、ぴったり!」

「ええ、本当に。少しのズレもなくぴったりなんですよ。元からここにあったのでは? と思えるほどに。それでさっき驚いてしまって。旦那様、持ち運びご協力ありがとうございました」

「いやいや、こんな事でいちいちお礼なんかいらないですよ。それより少し休憩にしませんか。もうかれこれ1時間半ほど働いてますし。その間オレンジジュースをひと飲みしただけでは疲れたでしょう」

「よろしいのですか。それでは5分ほど休憩をいただきます」

 と、その時2階から士郎が降りてきた。

「チュンさん! ちょっとこれめっちゃ面白いね! 2巻無いの? 2巻も読みたい!」

「そうですか! そう言われるのは作者として最高の喜びです。もちろん2巻もありますよ。いまカバンから出しますからね」

「士郎。何だいそれは」

「お父さんも読んでみなよ! チュンさんの描いた漫画!」

「へぇ! それは興味深いな。チュンさん。私も読んでみていいですか?」

「もちろんです」

(宏さんにも読んでもらえたら良いのですが……)

「士郎さん。宏さんは降りてきませんかね」

「兄ちゃん? そのうち来ると思うよ。別に兄ちゃん引きこもりじゃないし」

「そうですか。それならよかった」

「誰が引きこもりだって?」

「兄ちゃん!」

「誤解でございます。いま士郎さんと宏さんは引きこもりじゃないという会話をしていた所でして……」

「ふん……なんでもいいや。おれにもなんか飲み物くれよ」

「はい、兄ちゃんはコーヒーでいいでしょ?」

「ああ……」

(さあ、せっかく井之上家が居間に揃いましたのでチャチャッと居間の清掃をして少しコミュニケーションを取ってみましょうか。家政婦は初日の掴みが肝心ですからね)

『アズマ』は初めてのご利用のお客様は1日だけの格安の価格でお試しを出来るようになっている。ここでもし気に入れば正式な契約をお願いするし、もういいかなと思ったならお試しだけで終わり。

 そういった仕組みなので、紅中は井之上家と正式な長期契約が結べるようにしたいのである。

(お試しの一日でご満足させるのは難しそうなご家庭ではありますが。まあ、頑張ってみましょうか)

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Commentaires (1)
goodnovel comment avatar
ダン
強打にそんな意味があったとは! Xで最近フォローさせていただいた御実ダンと申します。新幹線での移動時間に一気見させていただきます... 既に面白い!
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